紅の豚次郎「真砂女」の俳句旅

俳人鈴木真砂女の「銀座に生きる」をたずねて

海の向こうにハワイが見える(2)

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 「来てみれば花野の果ては海なりし」鈴木真砂女

 1979年の2月に安房鴨川に着いた。

 フェリーに乗って千葉県に渡り、外房線金谷駅前から安房鴨川行のバスに乗った。東京湾を右に見て、菱川師宣記念館のある保田から、県道34号線に入り、鴨川へ向かう道を通る。カーブの多い山間部を走るのだが、途中菜の花など春の花々が点在し目を楽しませてくれた。当時はそんなバス路線があった。持ち物は、革の鞄一つ。横浜高島屋で奮発して買ったものだ。

 鴨川グランドホテルの社員寮は松林の中にあった。道をはさんで男子寮、女子寮と分かれている。4人一部屋で、部屋に入ると二段ベットが左右に配置され奥が4畳半の居間。寮に隣接して食堂があり、食券を購入し並べられた数種類のおかずから自分の好きなものを選ぶ。毎日おいしい食事をいただいた。ここで賄いを作るおじさん、おばさんも皆とても親切な人たちだった。

 この寮で、地元以外の社員が生活を送る。別にアパートを借りるなどという選択肢はない。私は神奈川から来たが、女子は全寮制だ。東北など遠方から来る女子も多い。

 私は、世間知らずの20代。ところが、3月の入社式に臨む新入りの女子たちは、高校を出たばかりである。親元を離れ見知らぬ土地で働き出すのだ。

 ホテルは、その寮から歩いて二、三分の所にある。仕事にどっぷり浸かる生活がこれから始まる。一人故郷を旅立ち、希望と期待に胸を膨らませ、まなじりを決して…

 「青嵐月曜の貌ひき締めて」 鈴木真砂女

 月曜の朝の銀座で、出社する若いサラリーマンの姿を詠んだ句だろう。 

 寮に入った私は新しい鞄を部屋に置き、つくねんと差し込む西日を眺めていた。